仏・菩薩・明王 塗り絵 3枚セット 01 見本付き

薬師如来と東方浄瑠璃世界――瑠璃光の治癒信仰・日光月光菩薩と十二神将の守護

静まり返った寺院の本堂、金色の光背を背負い、静かに座す仏の左の掌に、青く輝く小壺が載せられている。人々の肉体の苦痛を和らげ、心の病を癒やす霊薬を湛えた薬壺(やっこ)――言わずと知れた医薬の仏、「薬師如来(やくしにょらい/薬師瑠璃光如来)」である。

仏教における多くの如来、例えば西方極楽浄土の阿弥陀如来が「死後の極楽往生」を約束する来世救済の仏であるのに対し、薬師如来は「今生きているこの世界(現世)における病気平癒や延命」を約束する極めて実践的で心強い救済仏として、古代から現代に至るまで民衆の絶大な信仰を集めてきた。

古代の日本において、疫病や病気は目に見えぬ怨霊や悪鬼の祟り、あるいは業(ごう)の報いとして人々を恐怖のどん底に突き落とした。医学が未発達であった時代、人々が自らの命と愛する者の健康を託した唯一無二の希望の光こそが、東方の清らかな瑠璃(ラピスラズリ)の楽土から放たれる薬師如来の癒やしの光明であった。

右手を胸の前に掲げて人々の恐れを取り除く「施無畏印(せむいいん)」を結び、左手にはすべての病を治す万能の薬壺を捧げるその優美な尊姿。さらにその左右には、太陽の生命力を司る「日光菩薩(にっこうぼさつ)」と、月の静寂な安らぎをもたらす「月光菩薩(がっこうぼさつ)」が寄り添い、昼夜を問わず衆生を見守り続ける。

なぜ薬師如来はこれほどまでに深く日本人の魂に寄り添い、祈りの対象となってきたのか。古代の動乱を鎮めた国家鎮護の歴史から、白鳳・天平彫刻の頂点、そして十二神将が織りなす守護の宇宙観へと迫る。

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十二の大願と東方瑠璃光浄土――現世利益と病気平癒の根本教義

薬師如来の教えの根幹をなすのが、彼が菩薩として修行していた過去世において立てたとされる「十二の大願(じゅうにのだいがん)」である。

『薬師瑠璃光如来本願功徳経(薬師経)』によれば、薬師如来は東方十恒河沙(無限の彼方)にある「浄瑠璃世界(じょうるりせかい)」という清浄無比な浄土の教主である。その大地は青く透き通る瑠璃で敷き詰められ、黄金の網が張り巡らされ、城壁や宮殿は七宝で輝いているとされる。

薬師如来が立てた十二の誓願は、驚くほど具体的で人間味あふれる現世利益に満ちている。代表的なものを挙げよう。

  • 身心康楽の願:すべての病苦を除き、心身を健全ならしめる。
  • 諸根具足の願:盲目、聾唖、不具などの障害に苦しむ人々の感覚器官を回復させる。
  • 除饑渇・得妙食の願:飢えや渇きに苦しむ者に極上の飲食を与えて満腹にさせる。
  • 得妙衣裳の願:衣服がなく寒暑や虫に苦しむ者に、華麗で心地よい衣服を施す。
  • 解脱憂苦の願:悪王の圧政や牢獄の刑罰、処刑の恐怖に怯える者を解放し、安らぎを与える。

阿弥陀如来の四十八願が極楽往生を中心とするのに対し、薬師如来の誓願は、飢え、貧困、寒さ、病、冤罪といった「現実に人間が直面する生々しい苦しみ」からの即時救済を真正面から宣言している。生きる苦しみに喘ぐ庶民にとって、これほど頼もしく温かい救い主はほかに存在しなかったのである。

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奈良・薬師寺金堂本尊の奇跡――白鳳・天平の金銅彫刻美と台座に刻まれた世界文化

日本の薬師如来像の最高傑作として、世界遺産・奈良西ノ京の「薬師寺(やくしじ)」金堂に鎮座する国宝「薬師三尊像(白鳳〜天平時代)」を挙げないわけにはいかない。

天武天皇9年(680年)、天武天皇は愛する皇后(後の持統天皇)の重い病気の平癒を祈願して薬師寺の建立を発願した。天武天皇自身は完成を見ずに崩御したが、持統天皇と文武天皇によって引き継がれ、壮麗な伽藍と本尊が完成をみたのである。

中央に座す薬師如来像は、漆黒の輝きを放つ金銅仏(銅に金メッキを施した像)である。火災の熱によって表面の金が蒸発し、黒光りする独特の深い古色を帯びたその肉体は、ギリシャ彫刻を思わせる豊満で引き締まった胸部、堂々たる量感、そして完璧な均整美を誇る。

特筆すべきは、薬師如来が座す「宣字座(せんじざ)」と呼ばれる巨大な台座である。そこには、東洋と西洋の文化が融合したシルクロードの奇跡的な文様が刻まれている。最上段にはギリシャのパルテノン神殿を思わせる「葡萄唐草文(ぶどうからくさもん)」、中段にはペルシャ風の「裸形インディアン(異相の力士像)」、下段には古代中国の四方守護神である「青龍・白虎・朱雀・玄武(四神)」が躍動している。遠くヘレニズム文化からシルクロードを渡り、古代日本の都・平城京へと至ったユーラシア大陸の東西交流の精華が、この薬師如来の足元に永遠の命を宿しているのである。

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日光菩薩・月光菩薩の慈愛――昼夜を分かたず衆生を見守る三尊形式の完成

薬師寺金堂の本尊を拝する際、中央の薬師如来とともに見る者の心を捉えて離さないのが、両脇に直立する「日光菩薩」と「月光菩薩」の優美極まる立ち姿である。

向かって右に立つ日光菩薩は、太陽の昇る東天の光明を象徴し、日輪の温かき熱量をもって病魔の冷気を打ち払う。向かって左に立つ月光菩薩は、夜空を満たす清涼な月光を象徴し、発熱や煩悩の火照りを冷まして心に静寂をもたらす。太陽と月――この二大天体が薬師如来の左右を固めることで、昼夜二十四時間、寸分の隙もなく苦しむ衆生に救いの手を差し伸べる完璧な医療体制が表現されているのである。

彫刻史の観点からも、この二菩薩は日本彫刻史上の至宝とされる。直立不動ではなく、腰をわずかにひねって片足に重心を乗せる「トリバンガ(三曲法・コントラポスト)」の優美な立ち姿は、インド・グプタ朝彫刻の影響を色濃く反映している。薄い衣が肉体に吸い付くように流れる流麗な衣文、ふくよかな頬、そして伏し目がちに衆生を見つめる慈愛に満ちた表情。威厳に満ちた中央の薬師如来に対し、左右の菩薩がしなやかな動勢と慈悲を添えることで、静と動、剛と柔が完璧に調和した三尊形式の奇跡的境地がここに完成したのである。

病魔を調伏する十二神将の武威――薬師を守護する夜叉大将と干支の民俗信仰

慈悲深き薬師如来の周囲には、甲冑に身を包み、武器を手にして凄まじい形相で周囲を睨みつける十二体の武神が配される。これが「十二神将(じゅうにしんしょう/十二薬叉大将)」である。

十二神将は、もともとは古代インドの夜叉(ヤクシャ)神であったが、薬師如来の教えに帰依し、それぞれ七千、総勢八万四千の夜叉の眷属を率いて、薬師経を受持し信仰する者を昼夜護衛することを誓った守護神たちである。宮毘羅(くびら)、伐折羅(ばさら)、迷企羅(めいきら)、安底羅(あんていら)など、古代サンスクリットの名を今に留める。

鎌倉時代以降、この十二神将は日本の民俗信仰において「十二支(干支)」と結びつけられ、頭上に子・丑・寅・卯などの十二支の動物を載せる独特の造形が確立された。これにより、人々は自らの生まれ年の干支に対応する守護神として十二神将を親しみ、病気平癒だけでなく厄除けや武運長久を祈願する身近な信仰へと定着していったのである。

奈良・新薬師寺の本堂に円陣を組んで本尊を取り囲む塑像十二神将(国宝)は、激しい忿怒の表情、誇張された筋肉、翻る衣のダイナミズムにおいて、日本古代彫刻の極限の迫真力を示している。

現世の病と苦しみを直視し、あらゆる苦痛から人間を解き放とうとする薬師如来と守護神たち。その瑠璃光の輝きは、科学技術が発達した現代においてもなお、癒やしと再生を求める私たちの心に、澄み切った希望と慈悲の灯火を灯し続けているのである。

森の灯りの作品で楽しむ日本の歴史

東方浄瑠璃世界から注がれる薬師如来の青き癒やしの光、日光・月光菩薩の深き慈愛、そして十二神将が守る神聖な宇宙観――。日本の仏教美術が紡ぎ出す静謐で力強い世界は、日々の喧騒に疲れた私たちの心身に深い安らぎと再生のエネルギーをもたらしてくれます。森の灯り(Mori no Akari シリーズ)では、日本の尊き仏像や神仏の神聖な美しさをご自身の手で彩ることができるアート作品をお届けしています。

参考資料・出典

  • 大橋一章『薬師寺 金堂三尊像の謎』中央公論美術出版、2004年
  • 町田甲一『薬師寺』岩波書店、1976年
  • 佐和隆研『仏像図典』吉川弘文館、1990年
  • 頼富本宏『密教の仏たち』日本放送出版協会、1990年
  • 奈良国立博物館編『天平の美 薬師寺展』2008年

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