大日如来と両界曼荼羅を深い秋色でたどる記事

大日如来と曼荼羅を深い秋色で塗る|見本付き仏画ぬりえ

曼荼羅の細かな線を前にすると、どの区画から色を置くか迷うことがあります。胎蔵界の蓮華と金剛界の九つの枠を手がかりに、画面のまとまりを見つけてみましょう。大日如来の手の形や円成寺像の来歴も読みながら、資料としての図像と自由な配色を分けて楽しむ方法を紹介します。

その中心に関わるのが大日如来です。今回は、胎蔵界の蓮華、金剛界の九つの区画、奈良・円成寺に伝わる運慶の大日如来坐像を順にたどります。晩秋の深い青、緑、金色を使い、細かな線を区画ごとに塗る方法も紹介します。

密教の根本仏を絵で伝える

円成寺は大日如来を密教の根本仏として紹介しています。釈迦の生涯のように、一人の歴史的人物の足跡を追う題材とは性格が異なります。大日如来をめぐる光や宇宙の表現は、信仰の中で仏の智慧や世界のあり方を語る言葉として受け止めます。

大日如来の姿には、宝冠や胸、腕の装身具が見られます。如来という名から簡素な衣だけを思い浮かべると、華やかに感じられるでしょう。円成寺はその装いを王者の姿と説明します。ただし、その華やかさを仏教全体に共通する単純な順位表へ置き換えることはできません。

胎蔵界と金剛界を一対にした両界曼荼羅は、大日如来と諸尊の関係を絵で表す代表的な形式です。MIHO MUSEUMの解説では、胎蔵界は『大日経』、金剛界は『金剛頂経』に基づきます。同じ名称の作品でも細部は一つではないため、作品名、制作時期、所蔵先を確かめて眺めます。

名称を調べると「胎蔵曼荼羅」と「胎蔵界曼荼羅」の両方に出会います。MIHO MUSEUMによれば、厳密な名称は「大悲胎蔵生曼荼羅」で、もとは「界」を付けません。金剛界と対にして呼ぶ中で「胎蔵界」という呼び方が用いられるようになりました。資料の表記が違っても、ただちに別の世界を描く作品と判断せず、解説の経典名や画面構成を確認します。

胎蔵界は中央の八葉蓮華から

胎蔵界曼荼羅を見るときは、まず中央の花を探します。滋賀県立琵琶湖文化館の解説では、八枚の花びらを持つ蓮華の中心に大日如来を置き、その周囲の花びらに四仏と四菩薩を配します。このまとまりが中台八葉院です。

中心の一尊を見つけたら、花びらを一枚ずつたどり、その外側へ視線を移します。大日如来だけを切り抜いた画像では分かりにくい、周囲の尊像との位置関係が見えてきます。蓮の花は美しい飾りであると同時に、諸尊を配置する画面の骨組みでもあります。

中央の尊像に蓮華図と幾何学的な区画を組み合わせた創作画。両界曼荼羅の正確な図解ではない

塗り絵で蓮を塗るなら、中心を最も濃くするとは限りません。花びらの根元に薄い紫や青を置き、先端へ向けて紙の白を残すと、重なりが見えます。一枚ずつ明るさを少し変えると、同じ色でも単調になりません。

金剛界は九つの枠を数える

よく知られる九会の金剛界曼荼羅は、九つの曼荼羅を組み合わせた形式です。それぞれのまとまりを「会」と呼びます。胎蔵界と同じように一つの中心から外側へ広がると考えると、画面の構造を取り違えてしまいます。

まず九つの枠を数え、それぞれの中にどのようなまとまりがあるかを確かめます。大日如来は両界の主尊ですが、両方の画面で真ん中に一体だけが坐る、と覚えないことが大切です。

彫刻では、二つの世界の違いが手の形にも表れます。MIHO MUSEUMは、金剛界の智拳印を、胸の前で右の拳が左の人差し指を握る形、胎蔵界の定印を、腹の前で両手を上下に重ねる形と説明しています。左右は像自身から見た向きです。

塗るときも、最初から全体へ色を散らさず、一つの区画だけを小さな一枚として考えます。外枠を深い青、内側の装飾を緑、光の部分を黄土色にするなど、三色の役割を決めると画面がまとまりやすくなります。

円成寺の台座に残る運慶の時間

奈良市の円成寺には、運慶が手がけた国宝の大日如来坐像が伝わります。寺は運慶の最初期の作品として紹介し、作者を考える手がかりは台座に残された墨書にもあります。

東京文化財研究所の年紀資料集成には、台座裏面の銘文が掲載されています。安元元年、一一七五年十一月二十四日に始め、翌一一七六年十月十九日に奉渡したことが記されています。月日は旧暦で、運慶の正確な年齢は分かりません。寺が紹介する二十歳代という年齢も推定として扱います。

材料・技法は木造、漆箔、玉眼と記録されています。金色に見えるからといって、像全体が金属製とは限りません。表面の輝きと木の彫刻としての構造を分けて考えると、冠だけでなく、胸から膝へ続く量感にも目が向きます。

台座の文字には日付や運慶の名だけでなく、制作の対価についても記されています。円成寺が公開する銘文では、像の制作料に上質な絹四十三疋が充てられたことが読み取れます。現代のお金へ単純換算することはできませんが、造像が材料や労働のやり取りに支えられていたことを伝える記録です。作品を眺める際は、作者の才能という一言で終わらず、こうした文字資料にも目を向けると、彫刻を生み出した仕事の現場へ関心が広がります。

月光と水辺の尊像を描いた創作画。円成寺の大日如来像や境内の写真ではない

鑑賞メモを作るなら、「絵の配置」「像の手」「制作を示す文字」を別々の欄にしてみましょう。九つの区画は画面全体の構成、智拳印は尊像の見分け方、台座銘は個別作品の来歴を知る手がかりです。別の種類の証拠を混ぜないことで、ひとつの像を見ただけで曼荼羅全体の構造まで決めつける読み違いを避けられます。

区画ごとに深い秋色を重ねる

晩秋の配色として、紺、深緑、黄土色の三色を選びます。紺は外枠や背景、深緑は蓮や周囲の模様、黄土色は光と装身具へ。最初に余白へ三色を並べ、隣り合ったときの明るさを確認します。

曼荼羅の細かな線は、一度に濃く塗ると境界が見えにくくなります。色鉛筆を寝かせて薄く面を作り、最後に立てて輪郭近くを整えます。九つの区画なら、今日は一つだけ。蓮華なら花びらを二枚だけ。完成を急がず、区画を小さな作品として扱います。

史実の形を確かめるときは寺院や博物館の資料へ、自由な色を楽しむときは創作画と自分の線画へ戻ります。その境目を曖昧にしないことが、歴史と創作の両方を楽しむための制作上のこだわりです。

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中央の蓮から外側へ、九つの枠から一つの区画へ、像の顔から台座の文字へ。視線を動かす順序が分かると、壮大な曼荼羅も細部から楽しめます。晩秋の静かな時間に、まず一つの花びら、一つの枠へ色を置いてみてください。

参考資料

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